スタジオでの音のバランス

「スタジオ」はミュージシャンにとって当たり前の場所です。いつも練習する場所、バンドを組んでいるのであればいつもメンバーと顔を合わせる場所、自分たちの日常、自分の音が確認できる大切な場所です。

そのようなスタジオでリハーサルをする場合、ライブとは違い自分たちで自分たちのモニタリングをつくり上げることが必要です。その音はお客さんに聴かせるためのものとは少し違い、自分たちが演奏するために必要な音です。アンサンブルというものは自分たちで自分たちの演奏を聴き、相互に意識しあい、音を調和させ、ときには音をぶつけあい、ひとつの音楽をつくり上げるという行為です。それ自体はその瞬間にしか存在しないもので、その空間を満たす「音」を自分たちで生み出しているのです。

そのアンサンブルを自分たちの意のままにつくり上げるためには、自分たちの意のままにモニタリングを行う必要があります。それは「自分たち」が全員同じ意図を持っているわけではないのが難しい点です。人によって必要な音が違うということ、人によって聴きたい部分、意識している部分が違うということが最大の難点になります。そのため、個人個人がモニタリングしたいことを実現するようなスタジオ環境を作り出す必要があるのです。

音というものは「音源」からの距離で聴こえ方が変わるものです。音を発しているもの、それはギターアンプ、ベースアンプ、そしてドラム、さらはヴォーカル用のスピーカーなどからの距離で、それぞれ聴こえ方が変わります。実は「アンプ」に関してはその「すぐそば」が一番聴こえやすいというわけではなかったりもします。そこから少し離れた場所、具体的な距離にすると約4~5mの辺りが一番聴こえやすいとされています。それを熟知した人であれば、自分のアンプのすぐそばに立つのではなく、そこから離れた場所に立つという場合があります。ギターとベースが両サイドにいるのであれば、ちょうどアンプと立ち位置を逆にするということもあるのです。

ただ、これはリハーサルスタジオの場合です。ライブなどではセッティングの容易さから自分のアンプの前に立つことがほとんどです。その音の返しはフットモニターなども利用することになります。

このようにスタジオでの音のバランスは物理的な音量に加えてメンバー個人のモニタリングへの工夫も加味されます。そして、どうしても物理的に調節できないのが生楽器であるドラムです。ドラムの音が小さいのであればまわりの音を下げればいいのですが、逆に大きい場合はドラムに合わせて周囲の音を上げるしかありません。これによって「マイク」の音がハウリングしやすくなってしまいますから、その点も工夫する必要があるのです。

スタジオでの音の作り方を熟知するということは、自分たちの演奏に最適な音はどのようなものなのかということを理解することでもあります。また、「どうすれば演奏しやすいモニタリングが可能か」ということを感覚的に理解できるようにもなります。それはライブハウスなどで自分たちが演奏する際の音の「返し」の要望を的確に伝えることができるということにもつながります。

自分のモニタリング環境は自分しかわからないものです。そのための理解は、いくら深めても足りないほどなのです。