クリックを聴きながら演奏する

ドラムという楽器だけにとどまらず、楽器を演奏している時は「アドレナリン」が多く分泌されているものです。ですから自分が感じている「速さ」と、人が聴いている「速さ」は違うものなのです。

よく起こることとしては、演奏者の気持ちが高揚しているため、いつもよりもテンポが遅く感じるということは多々あることです。その結果アンサンブルとしてテンポが速くなり、いつもよりも演奏が速くなってしまうということが起こるのです。これは生演奏ならではのものであり、それが「ライブのダイナミズム」という人もいれば、「テンポは維持していなければみっともない」という人もいることでしょう。捉え方は人によりますし、ライブなどで「初めて聴く」という人が多いのであれば、その「速い演奏」が「その曲」ということになります。それが悪い印象でないのならば、それはそれでいいのかもしれません。

ただ、作り手側はそれでは良くない場合もあるでしょう。その曲のテンポもその曲のアレンジの内であるということです。テンポに対するこだわりを持っているのであれば、なるべくテンポは意図した通りに維持したいものです。ですが、どうしてもライブの高揚感がそれを邪魔するということもあり、なかなか一定のテンポで演奏するということは難しいのです。それは時によって「時間の感じ方」が違うからです。それは「体調」にも左右されます。

これを解決するのが「クリック」を聴くということです。この場合、クリックを聴くのはドラマーだけになります。ドラマーがクリックを聴くことで、それに牽引されるべき演奏も一定のテンポをキープできるということになるのです。このように「クリック」を聴くことは、場合によっては必要ですし、「走りやすい」という人にとっては今一度テンポキープのトレーニングを行うために必要なことであるかもしれません。それはリハーサルの時から実践するべきことで、クリックを聴きながら演奏することは、それはそれでなかなか難しいことなのです。

特にクリックを聴きながら演奏する際に難しいのは「フィルイン」の時です。曲の場面を変える場合などに多用する「フィルイン」は、通常のビートを刻む部分とは違う側面を持っていて、どうしてもテンポから外れてしまうことも多いのです。この際もクリックとタイミングが合うように叩けるようになれば、安定したドラミングが実践できるようになるのです。

このためにはドラムを叩く時には常にクリックを聴くということが必要です。リハーサルでも、ライブでも、録音の際にもクリックを聴いていれば、常に同じドラミングが可能になることでしょう。よくある悩みとして、レコーディングの時だけクリックを聴くというドラマーが、録音の際に「いつもと違うようになってしまう」というものです。それは「いつも」がテンポを無視したドラミングになっているということです。

クリックを聴きながら叩いていると、体調やテンションによって、その「同じであるはずのクリック」に対して違う印象を持つことを自覚できるでしょう。「演奏」という行為が「ナマモノ」であり、常に同じプレイを行うためには常に同じコンディションを保つ必要があるということを実感として理解できるはずです。