筋肉で叩くのではないということ

ドラムを叩くと腕が太くなる、カラダが逞しくなると考えている人がいます。ドラマーは身体が「ムキムキ」であるという先入観を持っている人がいます。ですが、実はそれは間違いです。

ドラムを叩くためには確かに筋肉が必要です。ですが、ギターであれば、ベースであれば、またキーボードであれば筋肉は必要ないのかというと、そういうわけではないのです。ドラマーだから筋肉が必要、ギターは筋肉がいらないということは絶対にありません。それぞれ、その楽器を演奏するために必要な筋肉があります。ドラマーは全身を動かしているので、確かに各部分に演奏するための筋肉が必要でしょう。腕を振り上げる筋肉、ペダルを踏むために足を引き上げる筋肉、それぞれの動作に伴う筋肉が必要です。

ただ、「叩く」、「踏む」ということに対してはさほどチカラを要さないのがドラムの演奏です。ヘッドを「打つ」瞬間、ペダルを「踏み込む」瞬間、そこには「重力」という心強い味方が存在するのです。ですからあえて「引き上げる」筋肉と記したのは、腕を振り下ろすよりも振り下ろすための予備動作、「振り上げる」ということに対して筋肉が用いられるからです。

スタジオなどで試してみてほしいのですが、ドラムスティックをドラムの打面に落としてみてください。音が出ます。常に振り回すドラムスティックは、そんなに重いものではありません。もちろんタイプによって差はありますが、常時振り回せるだけの重さでしかありません。そのスティックを打面に落とすだけで音が出るのです。実際に叩く際には、そのスティックの重さに加えて「腕」の重さがあるはずです。

ドラムを叩くのには、必要以上の筋肉は必要ないということになります。そこに気がつくことができると、ドラムプレイが一段階進化します。「大切なのは次のストロークに進むための予備動作」であるということです。「叩く」動作ではなく、「叩くための姿勢」を作るための動作もドラム演奏のうちであるということに気がつけるはずです。

これに気がつけた人ほど、「フォーム」を意識するようになります。腕は二本、足も二本しかありません。合計四本で、ビートをつくり上げるためには、「ムダな動き」が入る余地などは一切ないのです。速いビートを刻むためには、そのビートを再現するための素早い予備動作が必要です。そしてしなやかに重力を味方に出来る自然な体勢が必要です。

ドラマーが全身で音楽に同化するのは、そのように予備動作すらも「演奏である」と認識できたときです。叩くために腕を上げること、踏み込むために足を上げること、腕を振り下ろしはじめる瞬間から打面までの「距離」も、自分のドラムプレイの一部であると認識できることが大切です。それは「音がなっていなくても音楽を体現する」ということです。ヒットする瞬間だけが音楽ではないのです。ヒットさせるための予備動作、そのための筋肉が必要です。ですから、筋肉があれば音が大きくなるというわけではないということです。叩くために必要なことの7割は予備動作です。無意識のうちに腕を振り上げていたことでしょう。無意識のうちにその動作が固まっていたことでしょう。ですが、もう一度叩く「前」の動作を見なおしてみてください。