ダイナミクスのある演奏

ドラムという楽器は多くの音を出せる楽器ではないのです。ドラムのセッティングはさまざまな種類がありますし、多点セットを組もうとすればキリがありません。ひとりのドラマーがさまざまなパーツで自分だけの音をつくり上げるということもあるでしょう。

ですが、基本的にはドラムでは音階を再現することはあまり多くなく、また曲によってチューニングを変えるということも難しいものです。ドラムは打楽器であり、ビートを司るものであり、人のカラダと心を動かすものです。人に「カラダを動かさずにはいられない」という気持ちを思い起こさせる楽器であり、できることはシンプルではあるものの、突き詰めると奥が深く、追求すべきことはたくさんあるのです。その「ドラム奏者として追求すべきこと」の中に「ダイナミクス」があります。

ドラムは「叩く」ものであり、アンプを通して音を出すようなものではありません。中には電子ドラムというものもありますし、いざライブとなれば各部の音をマイクで集音し、PAの調製を経て大音量で会場に全体に届かせるものでもあります。ただ、そうではあっても演奏者が出す基本的な音がすべてです。元の音があってこそのPAですし、元のヒットがなければ電子ドラムだってまともな音は出さないのです。

そのような繊細な「ドラム演奏」のダイナミクスとは、純粋な「音のボリューム」ではありません。ドラムをチカラいっばい叩くのは気持ちがいいものです。腕を思いっきり振り上げ、チカラの限りスティックをヘッドに叩きつけることはとても楽しいもので、電気も通さずに自分がこんな音を出せるものかと、驚くほどなのです。ですが、演奏がすべてそれだけでは少し単調になってしまうかもしれません。

それだけを追求するのであれば良いのです。「どれだけ大きな音を出せるのか」と追求するのであれば良いのです。ですが、曲によってはただチカラいっぱい叩くだけでは成立しないこともあります。その曲が求めているのはフルパワーのヒットではなく、繊細なスティックワークかもしれません。

顕著な例がJAZZです。JAZZの演奏では大きなドラムの音はあまり耳にしません。空間と時間を自由に刻む繊細なビートがそこにあります。時には大きく、そして波打つように繊細に音を奏でているものなのです。それも間違いなく「ドラム」であり、ドラムプレーヤーが実現させている演奏なのです。

そのように演奏にダイナミズムを持たせる、そのための音の強弱は、ただ叩くよりも難しいものです。ただ叩くだけでは成立しないものです。正確なリズムを刻むこと、その曲に適したダイナミズムをつけること、それを意識しはじめた瞬間から、ドラム演奏が一気に「立体的」になるのです。歌い手が考える微妙なイントネーションと同じように、ドラム奏者も自分のスティックワーク、自分の演奏に対して立体感を持って臨むことができるのです。

そのような意識はひとつの音楽ジャンルから脱却することで得られるものです。ロックを追求することも悪いことではありません。音の大きな音楽を追求することは悪いことではないのです。ですが、それだけが自分の可能性だと決め付けてしまう前に、その音楽と平行した次元に別のアプローチがあることを知るだけでも、ドラムの演奏に幅が出るというものです。